フランスで暮らすイラストレーター兼作家で、コミュニティメンバーでもある龍山千里さん @ttymcst によるエッセイ。完全には分かり合いきれない文化が違う人々との暮らし。それを「フィールドワーク」と捉え、観察する日々を綴っていただきます。



冷える季節になってきましたね。冷え冷えです。この頃は家籠り気味、深海を泳いでいるような数週間でした。

先日、夫が苦戦の末に新しいプリンターを設定し終えたとき「ハレルヤ!」と言って喜んでおり、おお……私は一生しない独特な喜び方だなと面白く思ったのが最近のハイライトです。ささやかだ……。



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そんな日々のなかで個人的に一皮むけた小さな出来事がありました。

私はいま、会社での勤め仕事を週4日ほどしているのですが、パリの職場は日仏英が堪能なフランス人3人と、日本人2人の5人体制のチームで働いています。同世代の同僚もおり、なんとも良きチームに恵まれています。

 

一方で、この11月中旬から自分がかねがね育てていきたいと思ってきた個人の絵のお仕事にチャンスとチャンスが重なる流れがやってきて、アルバイトとネタ作りを並行する下積み芸人か〆切にしがみつく漫画家のような状態になっていました。



限られた時間だからこそ、計画を立ててクオリティをスピーディ―にあげられるのだ!という自負もあるので、しんどいけど楽しい日々で。

はじめて「いつか絵の仕事で食べていける日が来るのかもしれない」とわずかな希望がもてた時間でもありました。そのビジョンの為に今を重ねるぞと言い聞かせて、悔いのないものに仕上げていくことに注力して、めっきりそれ中心の日々でした。



そんなリズムがゆえに、勤め仕事は残業をなるべくやらず、いつも以上にきれいさっぱり定時で終わるので、とあるタイミングで「なぜこんな感じなのか、理由を言った方が矛盾が生まれないし、嘘がない……」と思って、信頼できる同僚に今の状況をシェアしました。



同僚はその会社での仕事を愛しており、私のような二足わらじタイプと違うため、これまで自分のクリエーションについて話すことがはばかられており、私としては勇気がいりました。で、その人にどこかでジャッジされるのではないかという恐れがあったと思います。

最近の仕事リズムの理由をシェアした上で「私はこの勤め仕事を始めた日から、いつか絵の仕事が今の収入を越えたらやめようと思っている」とまで口からこぼれた。ここまで言うつもりなかったぞ……!と自分に突っ込む(笑)。でも同僚はそれに最後まで耳を傾けてくれました。

それに対するフィードバックも正直なことばで紡がれたもので、結果的に今を肯定しながらも、自分の背中を押すコミュニケーションになり思いもよらない深い心地でした。



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分かってもらう必要はなくても意志を提示することはできるはずだと思い、自分を偽らない為に、どんなときでも、だれの前でも同じ自分であろう、と思えたのがようやく最近でした。

これを重ねていくことが私にとっては今大事な気がしています。



余談ですが、20代のときは会社の仕事=自分と思いこんでいたので「シャカリキお勤めしない人の意味がわからぬ!」という恐い視野の狭さで生きていました。人生で大切にしているものは一人ひとり違うことを知らなかった、そんな小さなことで人を判断していたところがあったやつでした。



当時理解しきれなかった人の気持ちや多様な生き方とか幸せを、ようやく想像する余白ができてきたように思えます。(おお、わからないを愛しむというテーマに終着できたような……!)

 

最近、特集記事の「ウェルビーングってなんだろう?」でもその本質について言葉が交わされており、うんうん なるほど……と読みふけっていました。自分にとっては心と行動を一致させていく作業がその要素のうちの一つかもしれないなと、この文章を書き終えた今ふと思います。

(2023/12/23公開)


龍山千里 | Chisato Tatsuyama
1991年神奈川出身、フランス在住。テキスタイル業界で働いた後に渡仏。パリで半会社員生活の傍ら、コラージュ制作やデザイン、記事執筆。
instagram @chisato_tatsuyama



【編集部より】

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