フランスで暮らすイラストレーター兼作家で、コミュニティメンバーでもある龍山千里さん @ttymcst によるエッセイ。完全には分かり合いきれない文化が違う人々との暮らし。それを「フィールドワーク」と捉え、観察する日々を綴っていただきます。
年が明け、竜が地面にからだをこすりつけているかのように、世界ではいろんなことが起きていますね。
最近、携帯が突然故障して、1週間くらい携帯のない生活をしていました。パソコンは毎日触るので、完全なデジタルデトックスではないのですが、それでも寝る前に漫画を読む習慣や(これ、よくないの知ってるんですがついやってしまいます)、携帯を目的なく眺める時間が激減して、とてもよかったです。
ライフラインとして必要なときもありますが、情報を体に入れ過ぎてちょっとしんどくなるときは、少し休憩するのもいいですね。
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クリスマスは夫と義両親、義祖母の5人でしっぽりと我が家で過ごしました。
フランス人はアペロという食前のおつまみタイムから食事が終わるまでが異常~に長いです。この日も御年92才の祖母がいながら、全て食べ終えたのは深夜1時半でした。食後に彼らは「ゆっくり食べたから消化も進んで、身体が軽い」と話しており、どういうからだの構造なんだと心底不思議でした。
アペロは私たち夫婦の担当で、自分の母からもらった有元葉子さんのレシピ本から、豆腐と海老と枝豆の落とし揚げを選んで作りました。
これが美味しかった! お酒を片手に談笑。のはずが。
5人の会話は自然と家族のこと、未来のこと、貯金のこと、それをどう運用するかについて話し始めました。
フランス人は政治の話が大好きですが、それに加えてうちの家族はそういうお金にまつわる話を日常的によくします。日本人的な感覚だと「そんなことを特別な日の家族集合の場で早速話すなんて、もっとあらたまった場で粛々と話すものでは……」とちょっと思ってしまうのですが、彼らにとっては普通です。
じきに仮想通貨の話など多岐に渡り、議論は白熱。
リスクがどうの、こうの。30分くらい黙って聞いたり、お酒を飲んだり、空いたお皿を下げたりして時間をつぶしたのですが、そろそろ限界でした。
「もうその話やめない?クリスマスイブのはじまりからお金の話ばっかりで、なんか嫌だな」と言うと「お金の話は家族全体にとって大事なこと。これはいたってノーマルだよ」と返事が返ってきた。
4人は皆そちらで、私がマイノリティ。でも全然私楽しくないぞ……、楽しくない……というところでなんか涙が出てきました(笑)
自分でも「おいおい、泣くなよ!」と心で何度も自分に訴えましたが、なんか疲れていたのか泣き出すと止まらず「大切な話じゃないとは、言ってないよ……家族が久々に集うクリスマスの始まりとして、そんな長々と話す必要があるんですか……他の時でいいじゃない……」と、嗚咽気味にもう一人でカオス状態。
私中心の意見でこどもっぽいアクションだけど、彼らも言いたいことは理解を示してくれて(みんな優しいです)、でも口調はおだやかになっても
「千里、これは私たちにとっては楽しい話題であり、生活に必要な大切なことなんだ」と繰り返していました(笑)。
文化がちがうだけで、本当にそうなんだと思います。
挙句の果てには泣き止みたいのに、お酒も入って涙が勢いづき「泣き止みたいのに、、ひっく、、泣き止めない、、うううっ」とただの泣き上戸みたいになっていました。
私自身「お金の話はあまりするべきではないもの」というようなブロックがあるのかなと考える機会にもなりました。
義母は北フランスの農家出身、義父はイタリア系移民のフランス人2世で、どちらもそれぞれの人生を戦って、生き抜いて今の家族の姿があります。お金の話は彼らにとっては多分、生きる上での知恵の共有のようで、料理のレシピをシェアする感覚に近いようにも感じました。
クリスマスは渡仏の節目で、ついにこちらに来て5年目に突入してしまいましたが、まだまだ新しいことばかりです。
(2024/01/20公開)
龍山千里 | Chisato Tatsuyama
1991年神奈川出身、フランス在住。テキスタイル業界で働いた後に渡仏。パリで半会社員生活の傍ら、コラージュ制作やデザイン、記事執筆。
instagram @chisato_tatsuyama
【編集部より】
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