フランスで暮らすイラストレーター兼作家で、コミュニティメンバーでもある龍山千里さん @ttymcst によるエッセイ。完全には分かり合いきれない文化が違う人々との暮らし。それを「フィールドワーク」と捉え、観察する日々を綴っていただきます。
フランスに移住して早5年目となりますが、実は1年目ちょっと鬱でした(とつぜんの告白)。今はすっかり穏やかな土壌で再び動き回っていますが、当時は「これが、鬱か!意味もなく、泣けるな……!」とやや感動さえおぼえながら自身を観察している自分と、時が経つのをただ待つ自分と、安心や悲しみなど色んな感じが並行していたときでした。
とある書き手のことばを借りると「自分の着ぐるみを脱ぐ作業」をしていたのかなと思います。
何者でもなかったけど、心身健康であることがすべての基本なんだな、と気づきをもらったのもこのとき、思えばハーブのことや香織さんのことを初めて知ったのもこの時期でした。
私という一人の人間をあたたかい湯舟につからせて、ゆるませて労わろうととにかく色んなケアをしていました。
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そんな中フランスに来て間もなくコロナ禍が到来して、仕事は休み+元気はそこそこロー(低い)+家にいるということで、学生の時から細々続けていたコラージュでもやってみるか~!と再開したのもそのときでした。
学生のときは、モノを作るのが好きなことを、意味もなく批判的に捉える自分がいました。「時間に余裕があって、経済的に自立していないなま温かい環境だから、美術が好きなだけなのではないか」「日々の生活に追われていたら、美しいものを愛でるなんて心のゆとりはないだろうか」「私は夢見る夢子なんだろうか(これは意味そうかもしれない……)」っていう疑問がいつも少しだけ十代のときにはありました。
が、三十手前でようやっと気づいた。
私、何者でもないけど、何も持ってないけど、今日も絵を作ってるなあ……!
本当に好きなんだな……!(驚)
郊外の小さなアパートで、窓から空を眺めながら机に向かって、すごく安心したのを覚えています。
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それから、SNSで絵をあげていたらコーヒー屋を開業した同級生にコーヒーのパッケージを頼んでもらったり、大学時代にお世話になった先輩にウェブ用のイラストを発注してもらったりして
つくることで自分を癒すだけでなく、すてきな人たちと繋がっていけるのかと
小さな窓から空気が入ってきたようでした。
それから近所のカフェに飾らせてもらったり
ギャラリースペースからメールがきたので遥々リヨンまで展示をしに行ったり
香織さんの本の挿絵という大仕事をいただけたり(いまだに信じられません笑)
今年秋はついにパリで個展をしたいと思っていたり。
出不精な自分を絵が色んなところに連れてってくれている……(書きながら気づく)。
5年前に自分の着ぐるみを脱いで、いったんもどってくると、人生にふしぎな風が吹き始めるんだなと、そういう気配が今日までも支えになっています。
これを書いているのは、日常に追われて今週壊れかけて、ひと時大切な軸を見失いそうだったので(笑)変な着ぐるみをまた着はじめないように、人生の原点のひとつを思い出そうぞ!喝―!と思って、綴りました。
コラージュが自分にとってなんなのかは、まだ道すがらですが、この旅をしばらく楽しみたいと思います。
みなさんの自分を旅に連れてってくれるものや人はどんなことでしょうか。
(2024/02/21公開)
龍山千里 | Chisato Tatsuyama
1991年神奈川出身、フランス在住。テキスタイル業界で働いた後に渡仏。パリで半会社員生活の傍ら、コラージュ制作やデザイン、記事執筆。
instagram @chisato_tatsuyama
【編集部より】
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