フランスで暮らすイラストレーター兼作家で、コミュニティメンバーでもある龍山千里さん @ttymcst によるエッセイ。完全には分かり合いきれない文化が違う人々との暮らし。それを「フィールドワーク」と捉え、観察する日々を綴っていただきます。
先日行きつけの美容院に行ったら、美容師のマダムがUSBキーを渡してくれました。
「あなたにおすすめの動画を色々入れといたわよ!」とのこと。
帰宅して開いてみると、色んなリズム調のダンス動画が10本以上入っていた。
以前彼女とは「いかに日々のスケジュールに無理なく、運動を生活に取り入れるか」ということについて散髪のあいだに情報交換したことがあったのです。
マダムは「家でダンスをして一汗かく」ことが習慣なんだと話してました。
「動くと運動になるでしょう、音楽とともにダンスをすると幸せになるでしょう、一人だと人目を気にせずできるでしょう、開始時間に左右されず自分の好きなときにできるでしょう、完璧じゃない!」と。
フランス人でもそういう内向的な意思を共存させてスポーツする人いるんだ! 良かった!と謎の安心感が生まれて(笑)すてき、すごくいいね! と絶賛していたら、おすすめダンス動画を渡してくれたのでした。
優しくて、彼女の温かさが染みた。
その動画とともに踊ってみたのですが、、ラテン調の音楽に身体を揺らして、すごく楽しかったです。だからあの人はいつも太陽のようなオーラなのね……と納得しました。
・・・
そんな日々のなか、こちらに来て時も経ち、渡仏一、二年目ほどこの土地の習慣に戸惑うことは少なくなって楽しめるようにもなってきました。基本的なふるまいのなかで「目を合わせる」ことは今も少し意識する必要があるなと時々思います。
例えば、みなさんは道で人とすれ違う時、どこに目線を向けますか?
私は視線をそらしてしまいます。目が合うと、やや気まずいからです。
一方で、私のパートナーはすれ違う人をガン見します。先日も「わっすごいクールな髪型してる」とか「今の人、緑色の目がきれいだな」とか。
待ってくれ。すれちがいの一瞬で、瞳の色を見ているのか?!という驚きがしばしばあります。
どうも、私が服装を認識するような感覚で、彼は瞳の色も認識するように習慣づいている節があるようです。目の色が人によって多様な欧州ならではの感覚の研ぎ澄まされ方だなあと思いました。
別の日、私はとある仕事の打ち合わせで、もやっとしていました。
お相手はとても信頼できる方なのですが、いつも表情が変わらない。自分もベストを尽くして仕事をしているから心配しなくていいはずなのに「(仕事のみならず)私のことを、どう思っているんだろう」と不安になってくることがありました。
それを夫に話すと返ってきたのは「表情を見るんじゃなくて、目を見るんだよ」でした。
なるほど!と腑に落ちました。
これまで対人関係のなかで「なぜこの人はいつも笑顔で話してくれるのに、こわいんだろう?」とか「一切笑わないのに、なぜか受け入れてくれている安心感があるな」という印象を持つ度に、この不一致はなんだろう? と拭いきれない違和感がありました。
本質的な感情や気配をたしかに感じているはずなのですが、今回、そんな些細な夫の一言が目に入りやすいものだけに惑わされかけていた自分を顧みるきっかけになりました。目は口ほどに物を言う、とはこのことですね。
思えば、こちらのマナーには、乾杯のときは必ず相手の目をみるというものがあります。その由来は、飲み物に毒を盛っていないことを確認し合うという習慣から来ているともいいます。
相手との関係性は、目を合わせて感じるものこそ自分にとっての真実に近いのかなとあらためて思ったこの頃でした。
(2024/03/20公開)
龍山千里 | Chisato Tatsuyama
1991年神奈川出身、フランス在住。テキスタイル業界で働いた後に渡仏。パリで半会社員生活の傍ら、コラージュ制作やデザイン、記事執筆。
instagram @chisato_tatsuyama
【編集部より】
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