連載「わからないを愛しむフィールドワーク」でフランスでの暮らしと出会いを切り取り届けてくださった龍山千里さん( @チサト さん)。今月から新しい視点での連載エッセイが始まります。
「ボートを漕ぐ道すがら」。
一人用のボートで海へと漕ぎ出した龍山さん。ボートの内と外を巡らせて浮かび上がるその時々の心象風景を綴っていただきます。毎月、創作してくださるエッセイの挿絵もお楽しみに。
こちらの学期はじめは9月ということもあり、秋は物事があらたにはじまる場面が多く、日本人の自分としてはいまだになんだか不思議な心地です。
一方で、心機一転もできてこころなしか晴れやか! 自分の人生のリズムで春と秋にはじまりのサイクルを感じられるのは、すこやかでいいなとすら感じるこの頃です。
すでに前回もお話しましたが、この夏は人生が一つ大きく動きました。
同じように、大きな変化があった人がこれを読んでいる方のなかにもいるだろうか。
このコミュニティのリニューアルとちょうど重なった個人的な転機として「思わぬタイミングではあったが、いつかはと覚悟はしていた小さな一人用のボートで海へ出航することになった、もう漕ぐしかないぞ!」というニューステージに入った。祝!(とりあえず祝っておこう……)
そして離岸、というのがこの秋のフェーズです。
日々、漕ぐとちゃんと疲れる。その実感すら今はうれしい。人生はこの継続なのだ……と少しずつ体感しています。
そもそも、人はみんなそれぞれいろんなかたちや大きさの船に乗っており、人生を旅しているんだなと、ある種当たり前のことにもあらためて気づきました。
ボートというモチーフのインスピレーションは、この夏ポルトガル旅行に行ったとき、大航海時代を象徴する大きなモニュメントをリスボンの街で見て、当時の冒険家はいまよりも不完全な船で命をかけてどこに到着するかわからないが大海原へ繰り出したんだな……! という事実になぜか今更心が震え、勇気をもらった瞬間がありました。
世の中には、航海のすえ出会った島や出来事をあとから成功談などとして知る機会はたくさんありますが、ボートを漕いでいる最中のことって、なかなか表に出ない。実際は日々、右往左往しておりカオス気味。でもそれこそが実は魅力的で愛しい時間なのかなと思い、ここではそれをなるべくニュートラルにとらえて、ボートを漕いでいたら見えた景色や出来事を徒然と書いていこうと思いました(どこに行くのかはわからないけど)。
横一列でスタートしたような思い込みがどこかあるのが今の教育や社会の構図であるようにも感じるのですが、じつは出航するタイミングも、離岸する場所も、ボートを漕ぎだす方向も本当はみんなそれぞれ違う。
いまは、自分のボートを漕ぐことに意識的であることこそが私にとってはひとつのwell-beingだなとも思ったりします。
でも、からだ一つで孤独に何十年も漕ぎ続けるということはできなくて、ときに仲間が相乗りして助け合ったり、交差する船同士で食物と燃料を交換したり、そういう力とか愛情の循環があってこそきっと、世界で長く大きくオールを漕ぎ、新しい景色に出会うという創造ができるのかなとか、想像をめぐらしていました。
思わぬ出会いがあったとか、嵐がやってきたとか、凪を迎えてにっちもさっちも進まないぞとか。
そういうこともユーモアにかえて表現できたらいいなと思っています。
ハレルヤ! で一躍知っていただいた夫(こちらのエピソード参照 )は、この秋から製菓という新しい方向に船を漕ぎ始めました。生き生きしており、船出の幸先は当人曰くおもしろいそうです。
糖の過剰摂取に私も気を付けながら、オールをゆっくり動かしていこうと思います。
龍山千里 | Chisato Tatsuyama
1991年神奈川出身、2020年よりフランス在住。日本の織物産地でテキスタイルデザイン職を経て渡仏、2024年秋よりフリーランスとして活動を開始。コラージュの手法を用いてイラストレーションやデザインを制作する。
instagram @chisato_tatsuyama
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