フランスで暮らすイラストレーター兼作家で、コミュニティメンバーでもある龍山千里さん @ttymcst によるエッセイ。完全には分かり合いきれない文化が違う人々との暮らし。それを「フィールドワーク」と捉え、観察する日々を綴っていただきます。
夫が5月に仕事を辞めた。
これを話すと、たいてい話の流れに空白が生じる。人によっては「聞いてはいけなかった」と気まずそうにする。
時には親しい人ほど「本当に大丈夫?!」という生活の心配や、あわよくば夫婦関係や、夫は人としてどうなのかという心配までしてくれる。
だから「旦那さんは何をしている人なの?」という質問も、毎度まじめに答えないで「環境エネルギー関係の仕事をしているよ」とぼんやり(うそを)返しておくべきなのだろうか。
適当にしとくべき? 事実を伝えるべき? と大真面目に日曜日の朝、夫に直接確認した。
近々日本人が沢山集まる結婚式がフランスであって夫婦で出席するのだけど、どういう対応するべきかという小~さなことに私は気を揉んでいたのだった。日本人というのがまたこれミソなのです。
「今、夫は仕事をしていなくて、次に何をするかもあまり決めてないんですが、もう少し田舎で農が生活の一部にある暮らしがしたいなとは夫婦共々、実は結構長く思っていて」
と大真面目に返し続ける夜を想像する。
大変だ……そして、人によってはあるであろう反射的に悪意なく感じてしまうジャッジの目線が痛いのよね、と妄想はとまらない。でも、うそをつくのもなんか悔しいし、なんだその変な見栄……とも自分に突っ込んでいた。
夫は「どっちでもいいよ」とのことだった。寛容だった。
「僕は僕が今どうしてこの状態にあるのか知っているし、全てはよい選択だと思っている。目の前のことはできることをやったし、でも自分を犠牲にしないで精神の健康を壊さないように守り切ったし、次にやりたいこともまだなんとなくだけど想像できているし、未来が一つも怖くない。こういう自分を誇りに思ってもいる」とのことで
それを聞いて、すいませんと思った。
私は基本、ありもしない未来を憂う(ことをもはや無意識に多分楽しみがちな)人間なので
「う、うらやましいよ、そのスピリット……!」
とコーヒーを飲みながら思ったりさえした。
ということで、ひとまず、ジャッジする人はそこまでの関係なので、私たちらしく誠実に聞かれたら真実を伝えようスタイルにしました。
・・・
今回もパートナーを話の取っ掛かりにしてしまったけど、フランスに来て、本当に仕事との向き合い方を考えることが増えた。
二十代は「テキスタイルデザイナーになる!」という文字だけを追っかけて繊維産地に赴き、兵庫、大阪と渡り、どこか矛盾があったエゴを関西で一度おいて、何者でもなくフランスへ来た。
それがとても良かった。
なんかうまく言えないのですが、収入のバランスがライスワークとライフワークで8:2だとしても、その2のために8をやっているなら、ライフワークを自己紹介に組み込んでいいんだ、って知ったというか。
(例えば会社員8:音楽家2、でも私は音楽家です、と堂々と名乗っていいのだよ、ということ。)
人の収入バランスなんて知らないのだから、自分の心の持ちようなのだよ。むしろその設定が自分の生き方を定義していくのだよ、と実はフランスに来てから気づいた。
お金を生んでいないとmeaningless, useless という価値観が石のようにあったんだと思う。
そこから一端、おそらく渡仏して社会とのつながりを一度薄めたのが良かったのだろう。
これからも生活にお金は大切だし、ある程度の計画性は安心にも繋がる。
でもいつも「足るを知る」ことを忘れないでいたい。
よい塩梅で「今」に集中して生きていきたいものだ。
そして今こそ、私のなかにまだひそかに潜んでいた依存心をリセットして「じゃあ、二人で食べていける方法を一緒に考えようよ」という2024年の今らしい、自分が舵を取る家族の在り方を模索してみたいと思う。なんかおもしろくなりそうです。
(2024/06/22公開)
龍山千里 | Chisato Tatsuyama
1991年神奈川出身、フランス在住。テキスタイル業界で働いた後に渡仏。パリで半会社員生活の傍ら、コラージュ制作やデザイン、記事執筆。
instagram @chisato_tatsuyama
【編集部より】
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