連載開始と同時に一人用のボートで海へと漕ぎ出したパリ在住の龍山千里さん @チサト 。エッセイ「ボートを漕ぐ道すがら」では、ボートの内と外を巡らせて浮かび上がるその時々の心象風景を綴っていただきます。毎月、創作してくださるエッセイの挿絵もお楽しみに!
春に新しい出会いがあった。
ナントという街に住むカメラマンの方が、パリで撮影をするときのアシスタントをSNSで募集していた。当時私は絵の仕事でスランプの海を泳いでおり、創造意欲が思うようにわかなかったので気分転換になるかな?と思い、気軽に手を挙げた。
タイミングが合って快く受け入れてくれて、この春はときおり撮影に同行した。一緒にパリの町中を3時間みっちり練り歩くのでこれが結構よい運動(と今更の観光)にもなる。
カメラマンの彼女は、自分の子どもが生まれたのを機にカメラにのめりこんでいったのだそうだ。「もっとよい画を撮りたい」という一心で、いつの間にかそれが仕事になっていたという。生業のうまれ方として自然でうつくしいなと思った。しかもフランスという異国の地で。かろやかで素敵である。
いくつものカメラとレンズを駆使して、バシバシと撮影している彼女の様子をみて、純粋に楽しそうだな!とわくわくしはじめ、インテリアと化していた我が家のフィルムカメラを引っ張り出した。フィルムが中に入ったまま、いつ頃から入っているものなのかもはや記憶にない……から、現像に出した。どれくらいうまく撮れているのか、何が写っているのかわからなすぎるのでひとまず印刷はせず、データにしてもらうことに。それでも2週間かかるらしい。フィルム1本の現像とデータ化で16ユーロなり。
そして新しいフィルムをいれた。いまだにISOと露出度、絞りがぐずぐずの自分は、博打のようにカメラのシャッターを切る。それでも、まあいいや。ひとまず夏にかけて、ときどき写真を撮っていこう~という心意気です。
つい0か100の極端なものさしで図ってしまうところがあったのですが、意味があるかとかどうかって大体わからない、だからこそ日々単純に楽しいと感じることをまたやり始めよう~というムードが生活にあふれてきて、おかげで本職の絵のしごとも調子が出てきました。このアマチュア万歳精神、今の自分にはとっても必要だった。遊びから創造は生まれる!
ちなみに、このカメラは母方の祖父が使っていたもの。これを買った祖父はおそらく20代だった。のちに、写真の専門学校で学んだ叔母が受け継ぎ、結婚してこどもが生まれて、そのあと18歳だった私の手に渡ってきた。当時はなぜか写真に夢中で、とくに荒木経惟さんの冷たく熱く写すポートレートや花、その対極にあるようにしずかであたたかな風景や土地の文化をおさめる津田直さんの写真が特に好きだった。
それにしても、ふしぎと20才前後の者に受け継がれていくカメラ。
ファインダーからしか見られない景色や、シャッターを切るときのカシャという感触、フィルムをぐるぐると巻き上げる動作……ありきたりだが古いカメラ特有の、デジカメでは削り落された要素に十代の自分は魅力を感じた。
昨今のチェキやインスタントカメラの波に引き続き、最近は画素数の低いデジタルカメラの質感自体が「エモい」といわれるようになって、平成すらなつかしむブームに若干の衝撃と戸惑いがある。でも、いつも若者がそういう不便さや不完全さに魅力を感じているのはなんとも興味深い。左脳をつきつめると、高画素の完璧なカメラに到達するのだけど、なにか足りない、欠けているっていうことに人は潜在的に魅力を感じたり、美というのもそういう比較でうまれるコントラストや欠陥、余白に潜むのかなと思ったり。
そのカメラマンの彼女はyoutubeチャンネルを友人の映像作家と開設して、ある日私の日常を撮りたいと声をかけてくれた。ガチの寝間着で登場していたり、色々突っ込みどころがある……のですが、せっかくなので貼っておきます!
https://youtu.be/Er0TFhiF064?si=zTpzDT7yRy2qzDhT
龍山千里 | Chisato Tatsuyama
1991年神奈川出身、2020年よりフランス在住。日本の織物産地でテキスタイルデザイン職を経て渡仏、2024年秋よりフリーランスとして活動を開始。コラージュの手法を用いてイラストレーションやデザインを制作する。
instagram @chisato_tatsuyama
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