連載開始と同時に一人用のボートで海へと漕ぎ出したパリ在住の龍山千里さん @チサト 。エッセイ「ボートを漕ぐ道すがら」では、ボートの内と外を巡らせて浮かび上がるその時々の心象風景を綴っていただきます。毎月、創作してくださるエッセイの挿絵もお楽しみに!
9月のあたまに、日本に帰ってきました。あ、暑い……!気候に一瞬戸惑いつつ、歩くとセミの声が、夜になると鈴虫の音も聴こえてくる日本の夏終わり特有の音の景色にほっとしていました。
この秋は京都で展示が2ヶ所あり、今は月末の展示の準備をせっせとしています。(きっと月の終わりでも暑いだろうな……!)
そして9/21(日)にはYTV大阪で30分ほどの短いドキュメンタリーが『グッと!地球便』という番組で放送されることになりました。関東などエリア外ではTVerの見逃し配信でみられるようです。
最初からお知らせのようになってしまったのですが、そのドキュメンタリー撮影は、今年7月にパリで開催された個展に合わせて行われ、この一連の流れで、あらためて自分の作るものと対峙させられました。
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以前、私の作るコラージュは抽象と具象の狭間を行くようなもので、見る人が一目でわかるような、いわゆるイラストレーションのような商業的表現を突き詰めることにはあまり興味が持てない、というお話をしたことがありました。
その一方で、今回のテレビ番組で求められたのは限られた時間でコラージュの魅力を伝える「わかりやすさ」。被写体に自分を選んでくださったディレクターさんを信じつつも、視聴者の目線で求めてくる彼女の言葉と自身の創作のあいだで心が揺れ動いた4日間でした。
そんな胸の内の一部を、アフレコのように書けたらいいなと思っています(笑)
取材当初はまず「何か新しいことに挑戦している姿を撮りたいです」という要望から始めった。挑戦する姿は励みになるし、臨場感が生まれるからだと思う。話を揉んでいくとどうやら「絵は大きいほどテレビ映えする」とのこと。
ふだんA4のコピー用紙サイズがスタンダードになっていた私の作品はたしかにテレビ映えしにくいだろう。でも、大きければ大きいほどいいといわれると、そんな単純?!と少しつっこみたくなりつつ、これもいい機会だなと思い「思い切って8倍のA1サイズに挑戦します!」と宣言した。
言っちゃった、言っちゃった~。(そしてのちに、かなりこのサイズと格闘する……)
普段使っている古雑誌では画面に対してピースが小さすぎる為、A1サイズにあわせて自然と素材の調達にも工夫が必要になってきた。それが結果、よい画を撮ることにも繋がったかなと思います。
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テレビの視聴者は絵画を見る習慣がない人が多いという前提で、いつも得意とする抽象画一本では挑めないと言われたのも、今回もう一つの挑戦でした。
説明的ではないけれど、なにが描かれているかわかるもの。それがつまり私の目指す「抽象と具象のはざま」なわけですが、その塩梅が意外とむずかしいのですよね……!
悩みに悩みましたが、結局自分の創作にとってはいつも大切なモチーフだった「山」を扱うことに決めました。撮影中「なんで山なんですか? 何か理由があるはずですよね」と10回くらい聞かれたと思うのですが、最後までその理由はわかりませんでした。
とにかく、山が好きなんです。(みなさん、理由はないけど好きなものってありませんか……)
小さい頃から生まれ育ったのは横浜の郊外、山もなければ森も海も特に見えない、自然とはかなり距離を感じる場所で育ちました。だから幼少期の記憶でもない……。大学卒業後は京都、兵庫の内陸と偶然山が美しい土地に住む時間がありましたが、心地よさは感じつつも、山に対する思い入れはすでに潜在的にあったように感じました。
これまでの人生で、なんども自問自答してきたことでしたが「わからないままでいる」ことの心地よさも自分のなかにはありました(それが抽象表現を好きな理由の一つだとも思います)。
「なにかそこに理由があるはず!」とテレビ的返答を求められ続け「前世の記憶とかですかね……」といっそ返してしまおうか悩んだくらいでした(もはやそれをオブラートに包んで言った記憶もあるし、半分そうなのではと思うほど理由が見当たらない)。
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そんなこんなでリクエストや質問にはなるべく誠意をもって返しながらも、一方でそれに沿うよう動く努力をするなかで、私の創作を記録してもらうにあたって「らしさ」とは何かと考え続けた4日間でした。
以前あるお仕事でご一緒したブックデザイナーさんが、私を選んでくださった理由を「安定のしなさ」だと話していた。それって欠点じゃありませんか?!と心配になったが、きれいにまとめようと過ぎない、どこかいつも広がりを想像させる有機的な気配がある、というようなことをおっしゃっており、それが取り柄になりうるなら守りに入るのはやめようと思ったことがありました。
今回、素材調達から撮影は始まったので、実際モチーフはざっくり「山」と決まってはいても、作れるのか保証はないし、集まった素材ありきで構図も決めていく。
ディレクターとしてはハラハラされたと思うのですが、この即興的なところにやはり生き生きとしたムードのようなものがあって、それは絵にも表れるのかなと、少し自分の「らしさ」に触れた瞬間がありました。(なによりも、そういうプロセスで創る作品は楽しい!)このプロセスは下書きから絵を塗り重ねていくような油絵とは、少し逆の要素だとも思い、コラージュという手法を選んだ理由もわかりました。
自分の手を動かして作るのだけれど、想像できなかったものが生まれる瞬間が好きです。
それは素材調達から出来上がる瞬間まで続く。一期一会のような偶発的なめぐりあわせで、絵が生まれるプロセス自体がひとつのオリジナリティだな、と少し紐解くきっかけとなった夏の出来事でした。
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さいごに、下記個展と放送の情報となります。
二手舎の展示では2日間とも在廊しますので、もしもお近くにお住まいの方は、ぜひお運びください。
[放送]グッと!地球便
9/21(日)放送回 ※西日本中心で放送/ 関東などでもTVerで2週間ほど配信ご覧になれるようです!
https://www.ytv.co.jp/chikyubin/
[展示] Chisato Tatsuyama『Memory Mending』
開催日時:9月27日 (土) 〜28日 (日)15:00〜20:00 ※在廊しています。
会場:二手舎 京都 ( map )
[展示] Chisato Tatsuyama『Mountains』
開催日時:9月13日(土)~10月13日(月)
場所:京都蔦屋書店5F BOOK売り場
龍山千里 | Chisato Tatsuyama
1991年神奈川出身、2020年よりフランス在住。日本の織物産地でテキスタイルデザイン職を経て渡仏、2024年秋よりフリーランスとして活動を開始。コラージュの手法を用いてイラストレーションやデザインを制作する。
instagram @chisato_tatsuyama
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