連載開始と同時に一人用のボートで海へと漕ぎ出したパリ在住の龍山千里さん @チサト 。エッセイ「ボートを漕ぐ道すがら」では、ボートの内と外を巡らせて浮かび上がるその時々の心象風景を綴っていただきます。毎月、創作してくださるエッセイの挿絵もお楽しみに!
高校時代の先生が「東北の人はこうやって切って食べるのもお馴染みらしい」と、リンゴを芯に対して垂直に輪切りする『スターカット』について、フェイスブックで投稿していたのをたまたま見た。
それを見て、あ、なんか外れた、と思った。
5歳とか結構まだ幼い頃にそのリンゴの切り方を幼稚園で知った私は、芯の部分が星型に見えるのが面白くて、早速家に帰ってやってみたら「それは正しい切り方じゃない。お行儀が悪いよ」というようなことを親にいわれたのを思い出した。
何気ないやりとりだったと思うが、その時のなんとなく感じた寂しさとか違和感のようなものをわっと思い出して、そして和らいでいった。
こういうことって自分のなかにまだあるかもしれない。今だから選びなおせるんだ、再編集できるのかもしれない。なんか希望だな~!という感覚です。
くし形のリンゴは美しいし、お客さんに出すときは良い。それを知ることも大切だ。
でも、スターカットして食べたって全然いいじゃない、と最近は朝、自分が食べる用にきらめく☆スターカットをしている。
たかがリンゴで少しおおげさかもしれないが、そとの世界に触れることで、自分の環境だけでは気づかなかった思い込みとか眠っている可能性の芽に出会うことが10月のテーマだったように思える。
というのも、先月は1か月の間に3週間ほど友人が入れ替わりで家に滞在した。
誰かと寝食を5日以上共にするってすごく濃密。
ふだん一人大好き人間の自分にとっては、ものすごい情報量だった。
偶然にも、勤め仕事から離れた直後という、なにかの取り計らいかっていうくらい完璧なタイミングだったのも不思議でした。(おかげで、寝床を提供するだけでなく、色んな時間を一緒に過ごせた。)
友人とはいえども、まったく生活習慣の異なる他者をこんな近くで数日間観察することはないので新鮮だった。
訪ねてくれた友人の一人はフリーランスの料理家として働いているY。ポルトガルやトルコ、イタリアを廻った料理取材の旅路でパリに立ち寄ってくれた。大学時代から知っているが、こんなに長い時間をともにするのは初めて。
彼女の食への探求心は、つまるところ「今この瞬間いかに自分を幸せにするか」ということへの追求。私は同じものさしを持っていないけど、それを叶えるためのTIPSがたくさんあった。わからないものはとことん調べて(こんなに積極的にChat GPTとGoogleレンズを活用してあらゆる疑問を勢いよく解決する30代に私は初めて会ったよ)、食べたいものにはたどり着く!という高い志で(それを情報と直感で軽々と叶えていく。コーヒー1杯も妥協なし!)それを悦びとして生きる彼女には刺激をたくさん受けました。
それはしごとにおいても然り。
目にうつるものすべてを「どう仕事にできるか」という視点で、自然と変換していた。それは目先の利益などではなくて「いかに自分の力をこの世界に活かせるか、人に喜んでもらえるか」という翻訳能力で、フリーランスとしてその基本的なマインドセットはすごく励みになった。
めちゃめちゃ解像度高く構想する&まずは行動してみることを繰り返すスポーツマンのようなY。彼女のおいしいへの探求心と、体力とご自愛力に励まされた。
その一方、私は「わからないことをそのままにする」ことも自分の才能であり長所なのかなと途中から開き直っていた節があった。最初は彼女と時間を共にすると「私って、どんだけ怠惰なんだろう……」と思いかけていた。解像度を高めようという意欲がそこまでなくて、なんとなく心地いい、だからOKという部分が生活でめちゃくちゃ多いのだ。
でも「世界の全部はすぐ言語化できないのだから、わからないままにするのも大切だ」と自分のなかの小さなジブンが、フォローしてくれた。
それが、たとえばコラージュを通した抽象表現を好む理由なのかなと思ったり。体験や感情→言語化→表現、というよりは、体験や感情→表現→言語化したりしなかったり、という順序だから、世界のなかでとりこぼさないものもあるかもしれない。
じゃあ体験や感情ってずっと覚えていられるかと言ったら、ざんねんながら記憶はあんまりあてにできない。どんな痛みもいずれ忘れられるのは素晴らしい力だと思う反面、日々の小さな幸せを覚えていることのむずかしさや大切さも最近あらためて感じていた。
すると、月の後半に訪れてくれた、子どもの本の出版社で編集者として働く友人Mは、編集者らしく(?)旅の途中に日記をつけていた。「旅行中だけだよ」といいつつも、まめに訪れた地名や食べたものを記録しており、いいなと思った。私もためしにスマホに数日間、旅の内容をおおざっぱにメモってみたところ、食べたものを書いただけで、その日の心の在り方が少し思い出せる不思議に遭遇。これなら時々できそう。
こういう部分的な解像度の細やかさを時々アップできたら、ゆたかかな~と思いました。
こんな具合で、誰かと対話することで自分の輪郭をゆるやかに再確認する10月だった。
対岸から来た馴染みの船と早々に海の上で小休憩して、思い出話をはさみながら「あっちにも進めるよ」「こういう方法でも進めるよ」と色んな人にガイドしてもらったようなひとときでした。
龍山千里 | Chisato Tatsuyama
1991年神奈川出身、2020年よりフランス在住。日本の織物産地でテキスタイルデザイン職を経て渡仏、2024年秋よりフリーランスとして活動を開始。コラージュの手法を用いてイラストレーションやデザインを制作する。
instagram @chisato_tatsuyama
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