連載開始と同時に一人用のボートで海へと漕ぎ出したパリ在住の龍山千里さん @チサト 。エッセイ「ボートを漕ぐ道すがら」では、ボートの内と外を巡らせて浮かび上がるその時々の心象風景を綴っていただきます。毎月、創作してくださるエッセイの挿絵もお楽しみに!



10月は夫がフランスから日本に来て、遅めの夏休みを過ごしています。

今回は、はからずも店を営む友人を訪ねる旅となりました。
まずは神奈川県藤沢~逗子、次は山梨県北杜市、そして長野県山の内町。


202510.jpg 1.79 MB

飲食に限らず、お店という場を作る人をいつもどこか尊敬している。

店主のこだわりが細部まで届いており、時間と共に場が熟成している感じや、お客さんとの関係性が育っていく過程を想像させてもらえるからだろうか。

オンラインでできることはどんどん増えるし、これからもそれは止められないだろうが、フィジカルな出会いや空間、時間がどうしてもひとの生活には必要な気がする。
それは本という紙の媒体が愛されつづけることにも似ているような。

普段A4サイズくらいの紙の上で格闘することでいっぱいになっている自分にとっては「店を持つ」ということは、壮大なことをなし得ているような印象でしかない。

でも、今回の旅ではそのお店それぞれの成り立ちをなぞって触れられたことで、それはオーナー各々の個人的で、自然な人生の流れで生まれた場所なんだと知ることができた(と同時に、やはりお店を作るとなると動くお金も大きいので、彼らの覚悟にも触れ、店主それぞれのことばが聞けて学びの多い時間だった)。

--

最初に訪れたのは藤沢から逗子にかけての海沿いの町。

神奈川県出身の自分にとってもなじみ深く、特に逗子は住むイメージも具体的に湧き、良い空気の流れる場所だった。

この土地でコーヒー屋さんを営む友人は高校時代の同級生。
彼とは絵を通して色んなコラボを重ねてきたが、ようやく!お店に行けた。

生まれ育った実家から歩いて5分のところに構えたという、駅近の居心地がいいカフェ。地元に愛され、旅人を歓迎して、開かれた場所が店主である彼自身を体現していると感じた。

photo (6).jpg 415.06 KB

私は昔ながらのいわゆる「喫茶店」が好きなのだけども、あのなんともいえない時の重なり、壁紙に染みついた色んなにおいすらも魅力的。
いい意味で、それに似た「こっくりとした良さ」がじわりと滲んでいる空間だった。

--

次に訪れた山梨県北杜市では、繊維産地で奮闘した友人が開いたカフェを訪れた。昨年からチョコレートのブランドを始め、今秋にイートインできるお店を開いたという。

当時は綿織物を追求して、それはそれはストイックだった彼が仕込んだというチョコレートアイスクリームは驚くほどおいしかった。

ゆくゆくの展望を聞くと、なんと同じ土地に服のセレクトショップを開いて、日本製の服を売る場所を作りたいのらしい(まさかの、チョコレートはあまり関係ない!)。

しかし、今の道筋は彼の壮大な計画から綿密に編み込まれているのだという。設計図がどんなに大きくても、つくるもの一つずつが磨き抜かれており、さすがだった。

photo (3).jpg 319.03 KB


--

長野県山の内町では、パリで出会った友人である日仏夫婦がオープンしたレストランへ。

シャルクルトリ(精肉、加工肉)をフランスで学んだ旦那さんがシェフとなって、極旨なお肉料理を気軽にたくさん楽しめるお店になっていた。

パリで出会ったときはカメラマン夫婦だった二人。

出会ったときは、まさか5年後、こんなかたちで再会するとは思ってもいなかった。

なんで縁もゆかりもない山奥のこの土地に決めたのかと尋ねると
「何にもないから、いいなと思った!」とのこと。明解爽快な回答。
シンプルでパーソナルな選択が彼ららしかった。


photo (2).jpg 262.03 KB

--

お店を持つということのむずかしさと楽しさを体現している三者三様の在り方に出会い、
パティシエを生業に選んだ夫にもこの度はよい刺激となったようだった。

私自身も、夫のおかげで、人生やりたいことリストが一つできたような感覚。
夫を応援するかたちで、日本でどうお店づくりをしていけるのか思いを巡らせながら、縁ある人たちに現実的な質問や疑問をぶつけられるとっても貴重な機会となった。

創作や個展が落ち着き、表現(アウトプット)から吸収(インプット)に心と体が向いているなと感じるタイミングのこのごろ。それもまた心地よい。

お店作りと絵の創作は一見別物だが、続けていけば
またどこか面白い交差点が表れるのではないかと我ながらひそかに期待もしている。



そして、お店といえば!なによりも。
Dgs Phytreatも新たな土地でまた新章がはじまるとうかがって!


この夏に香織さんとパリで再会したときにうかがったこれからの事、目指す在り方、
進んでいるプロジェクトなどがこれから新しい場所で生まれていくのかと思うと

やっぱりすごい!という思いと共に、

訪れるのが今からとっても楽しみです。



龍山千里 | Chisato Tatsuyama
1991年神奈川出身、2020年よりフランス在住。日本の織物産地でテキスタイルデザイン職を経て渡仏、2024年秋よりフリーランスとして活動を開始。コラージュの手法を用いてイラストレーションやデザインを制作する。
instagram @chisato_tatsuyama 



コミュニティメンバーのみなさまへ
ご感想やコメントはぜひ @チサト さんをメンションしてお書き込みください☆


初めてコミュニティへいらっしゃった方へ

コミュニティ「Phytreatweb(フィトリートウェブ)」では、さまざまな視点で ”私とハーブの循環創造" を叶えるコンテンツやイベントをご用意しております。

ご興味がある方は コチラ    をご覧ください。